彫刻の話

今日はThe one OCEAN JEWELRYで用いているハワイの希少伝統彫刻技法「深彫り」に関するお話です。

まずはこちらをご覧ください。

代表的な絵柄「ヘリテージ(上段)」と「マイレ(下段)」を浅彫りと深彫りで彫刻した参考例です。

画像で凡そのイメージはおつかみいただけるかと思いますが、せっかくのご機会です。
少々マニアックな話になりますが、宜しければお付き合いください。

※彫刻技法をはじめ、絵柄のデザイン・呼称・その他文中の内容は各社独特のものが存在します。
当内容はあくまでも当ブランドで用いている深彫りのご理解をより深めていただくための参考としてお捉えください。

早速本題に入りますが、深彫りは大きく分けて以下2つの特徴があります。

・深度と線幅
・工具

深度と線幅

まずは深彫りの一番の特徴とも言える2つの要素です。

冒頭画像のヘリテージの上部1/3が分かりやすいかと思いますが、深彫りは高低差のある凹凸と広い彫り幅があります。
凹凸は彫刻箇所によって適宜調整しますが、深いところでは必要に応じて同じ部分に複数回刃を入れます。

彫刻部分の線幅が広く長いことも重要な要素です。

線幅は彫刻刀を深く入れるほど広くなります。
なるべく深く広い線幅を出すにはストローク(一彫り)がある程度長い必要があるため、深彫りのスクロール(波の絵柄・下記画像参照)は彫刻を途切らないのが特徴です。

彫りを入れる順番として、

浅彫り

1. ウィグル(青いウネウネ模様)

2. アウトライン彫刻(赤部分)

※ウィグルに沿ってアウトライン彫刻を入れる。ウィグルが繋がっているのでアウトライン彫刻は途中で途切る。

深彫り

1. アウトライン彫刻

2. ウィグル

※アウトライン彫刻を先に入れ、その中をウィグルで埋める。アウトライン彫刻が基準なのでストロークが長く、途切らない。

このような感じで、深彫りは深度と線幅で「絵柄が浮いて見える」ような造形を施します。
深く彫られた絵柄は経年劣化による柄の摩耗を長持ちさせることができるという利点もあります。

余談

絵柄のバランス

彫刻は対象となるスペースに最も美しく、且つ自然な形で絵柄が納まるようにバランスと曲線を緻密に計算しながら施します。

よく絵柄を無理に収めたようなものや曲線が不自然なものを散見しますが、The one OCEAN JEWELRYでそういった無理はしません。
絵柄は全て自然界がモチーフとなっており、自然に「無理」は存在しないからです。

分かりやすい例としてはスクロール(波の絵柄)です。

綺麗なスクロールは緑の部分(通常ではマイレ(葉)が彫られている)が波の形をしています。
スクロールの頭(円い部分)とウィグルの方が視覚的に認識しやすいので「今までそこを見ていた!」という方も恐らく多いのではないかと思いますが、彫刻的には緑の部分が綺麗ならスクロールも綺麗なはずなので是非今後の参考にしてみてください。

彫刻種類

貴金属彫刻の技法は浅彫りと深彫りがあります。
現在世に出回っている彫刻が施されたジュエリーやアイテムの殆どは浅彫りです。

理由としては単純に(深彫りは職人が殆どおらず)技術継承・制作されるものが浅彫りとなるため、世間的認知も浅彫りが圧倒的といったサイクル(そもそも深彫りを教授できるところが殆どと言っていい程ない)からです。
加え、とくに日本では需要として華奢な(本格的な深彫りができるほどの大きさがない)ものが圧倒的に多いという事や、そもそも深彫りの方が色々な意味で習得が困難という点も大きく関係しています。
※当ブランドでもある程度小さいものを扱っていますが、技法としては深彫りを用いています。

和彫り・ネイティブアメリカンジュエリーとの違い

和彫り

貴金属彫刻の「和彫りは」彫刻刀を「引く(自分に近づける)」形で彫ります。
反対に洋彫りは「押す(自分から遠ざける)」形で彫るという点が両者で最も異なる点です。
※当ブランドで用いている「ハワイアン彫刻」は洋彫りとも和彫りとも若干異なる技法ですが、押し彫りから派生しているという点においては、洋彫りの括りに入ります。

ネイティブアメリカンジュエリー

俗にいう「インディアンジュエリー」も複数種類ありますが、代表的な一つとしてはナバホ族の「スタンプワーク」があります。

鏨(たがね)で地金を加工するという点においては当ブランドとも共通していますが、スタンプワークは彫るというよりも地金に「打つ」技法です。
鑢などで様々なデザインに成形された鏨の先端を地金にあて、金槌で「打ち込む」というイメージです。

すみません。余談含めかなりディープな内容のオンパレードですね。
興味が無い方は既にページから離脱されているかもしれませんが、当内容に関しては「ブレーキが壊れている」みたいなので恐縮ながらもう少々続きます。

引き続きの独走になりますが宜しければお付き合いください。

工具

工具も浅彫りとは異なるものを使用します。

彫刻時は刃をいずれかの指でおさえる(添える)のですが、深彫りは刃をおさえるのに親指を使用し、彫刻器具もパワーがより強い専用のものを使用します。

彫る際はマグナブロック(彫刻台・前回記事参照)の角度や回転を駆使しながら地金を抉るように彫刻を施します。
スコープ(顕微鏡のような器具)を使用する事はありません。
(厳密にはマグナブロックをかなり動かすので可視範囲が固定のスコープは使えないという方が正しいです。加え、スコープが必要なほど小さなものはそもそも深彫りができないという点もあります。)

浅彫りの参考例

刃を人差し指で軽く押さえながら地金肌をけがくように彫刻を施します。

また、彫刻箇所やサイズによっては肉眼での可視に限界があるため、結構な割合でスコープ(顕微鏡のような器具)を用いて彫刻台(マグナブロック)の角度は固定で作業します。

以上、深彫りのご説明です。

いかがでしたでしょうか。

マニアックすぎるな、と思いながら書き進めていましたが、最後までお読みいただけた方がいらっしゃれば嬉しく思います。